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(2008-4-9 7:07:31)
存在意義
(2007-6-9 13:43:28)
そこからどうやって移動したのか記憶がなかったけど、ふと我に返るとあたしはリュウのアパートの部屋の前に立っていた。
合鍵で玄関の鍵を開けようとしたけれど、あたしは躊躇いを感じた。
あたし、今どんな顔をしているだろう?
こんな腑抜けた顔でリュウに会ったら優しい彼を心配させてしまうだろうか。
なんとなくリュウの顔を見る気にもなれず、あたしはぼんやりと空を眺めた。
買い物をたくさんして荷物もたくさんあるし、一旦マンションに帰ろうか…
あたしはぼんやりしたままそう考えてアパートの階段を静かに降りた。
結局、あたしが帰る場所はあのマンションなのだ。
そしてあたしは愛があろうがなかろうが、あの男の妻なのだ。
こんなことでその現実を痛感させられてしまった。
電車を乗り継いでマンションに戻ると、エレベーターでセレブ妻仲間で同じフロアに住んでいる桃川さんに会った。
「あら、梅原さん。ずいぶんお買い物してきたのねぇ」
彼女は30代前半で、比較的年齢が近かったから竹井さん主催のランチ会以外でもよく一緒にランチに出かけていた。
元ナースで、旦那さんは大学病院のドクターなのだと彼女自身が教えてくれた。
ナースらしく性格がサバサバしていて、あたしは彼女が好きだった。
「なんか久し振りに買い物に出たらいろんな物が欲しくなっちゃって。今夏物がたくさん出てて誘惑が多いのよね」
あたしはそう言って笑った。
本当は笑えるような気分ではなかったけれど、だからといってここでちゃんと人付き合いをしないわけにもいかない。
「わかる、わかる〜。そういえばさ、梅原さんって上の階の藤島さんと仲悪かったわよね」
昨日・一昨日と彼女と大トラブルを起したばかりだ。
まさか彼女がリュウに振られた腹いせに何かまたとんでもない事をしでかしたんじゃ…
「う、うん。なんだか一方的に目の敵にされてたみたい」
「そういう感じだったわね。それがね、藤島さんの様子がおかしいのよ。昨日の夜中かな、今朝ゴミの日だったからこっそりゴミステーションにゴミを出しに行ったのよ。あ、これは竹井さんたちには内緒ね。その時にスリップドレスっぽい物1枚だけの姿で7階のフロアをウロウロしてたのよね。ね、おかしいでしょ?」
ランジェリー1枚だけの姿で外をうろつくというのも怖かったけれど、それ以上にうちのフロアを夜中に徘徊しているというのはさらに怖い。
「何があったのかわからないけど、気をつけたほうがいいわよ。彼女の目、ちょっとやばかったから」
そう言ったところでエレベーターは7階に到着し、桃川さんはじゃあね、と言って自分の部屋のあるほうにスタスタと歩いていってしまった。
もう、どうしてこんなことばっかり起きるんだろう…。
とりあえず旦那が帰ってくるまではこの部屋でひとりにはなれないな、そう思った。
旦那がいたからといって彼があたしを守ってくれるとは思えなかったけれど、それでもあたし一人でいるよりは安全だろう。
昨日出て行ったばかりの部屋に戻り、あたしは服の入った紙袋を部屋に放り投げた。そして自分のベッドに勢いよく倒れ込む。
あたし、どうしてここに帰ってきちゃったんだろう。
ここにくれば旦那の事を否が応でも思い出しちゃうのに。
あのままリュウの元に戻れば旦那の事なんて忘れられたはずなのに。
うつ伏せから仰向けに体勢を変えると、ちょっと前に見た旦那の姿が脳裏に蘇ってきた。
なんであの人が紙おむつなんて持っていたんだろう。
なんで…
なんで?
そんなの理由は明白じゃない?
きっと旦那と愛人の間には子供がいるのだろう。
もしかしたら愛人と他の男の子供かもしれないけれど、それでも旦那はああやって紙おむつを買ったりして父親の真似事をしているのだ。
なるべくはっきりさせないようにと無意識のうちにしていた問題の答えを今あたしは出してしまった。
あの子供がもし旦那の子供であるなら、あたしはゴミのように簡単に捨てられてしまうのだろうか。
「子供が出来ない」それだけであたしの存在は否定されてしまうのだろうか。
頭の中でグルグルとそんなこと考えているうちに、昨日リュウと一緒に夜更かししてしまった上に朝早起きしてしまったおかげで急に睡魔が襲ってきた。
こんな時にも眠気が襲ってくるなんて、やっぱりあたしは旦那の事なんて愛しちゃいないんだな…
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